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||| ラジオ Ver.U ||| ラジオに出るのはあまり好きじゃない。 言いたいことが言えない歯がゆさが辛いから。 もっと歌のことを話したいのに。 曲のことやアレンジのことや詞のことだって話したいのに。 話したいことと、聞かれることは違うんだ。 「このスタジオの近くにはよくいらっしゃいますか?」とか。 「好きな女性のタイプは?」とか。 違うんだ。 もっともっと話したいことがあるんだ。 今日だって、言いたいことは何も言えず、口だけが痛い。 目の前には木根がいる。 今日は珍しく木根が僕のうちに来た。 約束もしてないのにうちに来た。 木根はいつだって必ず連絡を入れる。 なのに今日はいきなり来た。 来た瞬間、ワインの瓶をかざした。 もらったそうだ。 木根のまわりでワインを好んで飲むのは僕しかいないそうだ。 だから、今日はいきなり来たらしい。 「うまいの?これ」 同じのを飲んでるはずなのに、木根はわけのわからないことを僕に聞く。 「おいしいんじゃない?」 「それはよかった」 木根はそう言うと、ソファに深く座り直した。 首をかしげる僕に、木根はバカに真面目な顔で続ける。 「ワインの味わかんなから、ウツがうまいって言うなら俺は今うまいワインを飲んでるんだなーって安心できるんだよね」 相変わらず、木根の思考回路はわからない。 「なんでいきなり来たの?」 「だからさ、これもらったから」 テーブルの真ん中やや僕寄りに置いてあるワインの瓶を指しながら、木根は言った。 「俺の話し聞いてた?」 ちょっと不満そうに言った。 こんな夜なのに、僕はなんで木根なんかとワインを飲んでるんだろう。 すっごいすっごい、本当は落ち込んでるのに。 ラジオの最中、早くうちに帰ってお風呂に入ってすぐに布団に潜り込もうと思った。 こんな日はだって誰にも会いたくない。 疲れてる体と、弱ってる心は、自分でしか治せない。 なのに目の前には木根がいて、一緒にワインを飲んでいる。 ワインをグラスに注ぎながら木根を見た。 木根は不敵な笑みを浮かべている。 「こえーよ」 僕はワインを飲み干した。 「おいおい、そんなカパカパ飲むなよ。高いんだぞ?これ」 「もらいもんだろ?」 僕はまたワインをグラスに注いだ。 どうせひとりになれないのなら、一緒にいるのが木根なのなら。 いいんじゃない?少しくらい飲みすぎたって。 そう思ったらどんどんワインが体の中に吸収されていく。 「小さいことでもさ、溜めると体に悪いからさ」 いきなり木根はわけのわからないことを言い出した。 ワインを飲む手が少しだけ止まった。 「なんで?」 思わず木根を凝視する。 木根は相変わらず不敵な笑みを浮かべている。 「だから、それ怖いって」 止まってた手をまた動かし、グラスを口に運ぶ。 「あとでさ、星空でも見ないか?」 顔に似合わない恐ろしいことを口にする木根に、思わず僕は吹き出した。 「・・・バレてた?」 笑いながら言う僕に、木根は頷いた。 「俺を甘く見るなよ?」 けっきょく星空を見ることはなく、木根はソファで眠りの世界へ行ってしまった。 テーブルにはワインの瓶が4本置いてある。 でも木根が飲んだのは、3杯くらいなはずだ。 「あいかわらず、弱いな」 僕はひとりでワインを飲み続けながら、寝ている木根を見た。 「いつバレたんだ?」 立ち上がりながら僕は呟いた。 カーテンを開けてみる。 今日はひとりじゃなくて良かったかもしれない。 少し気が晴れたかもしれない。 明日もまた、がんばれるかもしれない。 僕のことをわかっている人間がいるって気付けただけで、元気になれたかもしれない。 寝ている木根に、お礼を言うことは一生ないけど。 [20040321] |