||| メール |||

「まず『新規作成』ですよ」

スタッフに言われて携帯のボタンをあちこち押してみる。
「どこにあんの?」
「だからさっきの『メール』の画面ですよ」
「あーさっき見つけたヤツね。あれどこだっけ」

パソコンを使えたらいいなって思ったことはあった。
けどなんか難しそうじゃん。
説明書なんてものすーっごい分厚いんじゃないの?
覚えらんないもん。
でも携帯だったら出来ちゃうかもしれない。
この前スタッフに買いに行ってもらったんだ。
レコーディングのちょっとしたヒマを潰したいなーくらいの感覚で。

電話をするのと受けるのは楽勝。
悪戦苦闘しながらも、メモリー登録も出来た。
ゲームだって覚えちゃった。

ほら、携帯だったら全然大丈夫。

なんて思ってたら「メールはやらないんですか?」って言われてさ。
みんながバタバタしてる間にちょっといじってみたら、そんな画面が出てきた。
それでメールをやろうと思ったんだけど・・・

「どこ行っちゃったのかなー」
さっき木根から電話かかってきたら、そんな画面どっか行っちゃった。
電話切ったら最初の画面になっちゃってるんだもん。
「あ、木根がBBSに書き込みも出来るって言ってたよ」
「・・・あのーそれ買って来てウツさんに渡した時に俺言いましたよ?」
不服そうなスタッフ。
そうだっけ?言ってたっけ。

「そんで、メールは・・・」
「ちょっと貸してもらえますか?」
スタッフはそう言う前に既に僕の手からピカピカの携帯を取り上げていた。
「俺と同じキャリアだから分かると思うんですよね」
・・・なかなか意味不明な言葉を使うもんだ。
僕もいつか「キャリアがぁ〜」とか言い出すのかな。

「これこれ、ここですよ。いいですか?左のこのボタン押してください」
「あ!そうだよ、この画面だった」
「聞いてます?左ですよ?」
「新規作成はどれ?」
「えーっと、それはこのボタンです。メール開くには左ですからね」

メール新規作成画面としばらくにらめっこ。

「作らないんですか?」
「んと、送る人はどこに入れるの?」

てっちゃんをメモリーから引っ張り出してくる。
この前苦労していろんな英数字を打ち込んだ甲斐があった。
ボタンひとつでてっちゃんが出てきた。
件名に「ウツ」って入れてみる。
カナ変換にまたスタッフを呼んでしまったけど。

【メールできるようになったよ。そっちは忙しい?】

『?』を入れるのにもまたスタッフを呼びつつ、なんとか完成。
「疲れるなー」
コキコキ肩を鳴らした。
目の前で「次の質問は?」とスタンバってるスタッフは「出来ました?」と腰を浮かせた。

「送る時は一回これでこの画面から抜けて左の下のボタンを押して・・・出来ました?それで上のボタンを・・・」

ダメだな。
当分メールは誰かいるところからじゃないと送れない。
ひとりでこんなことできない。

「慣れれば簡単ですから」

封筒の絵がクルクルと舞ってる。
こうしてクルクルと、ハワイにいるてっちゃんの元にこのメールが届くのか。
なんだか夢があっていいね。

「ありがと」
スタッフにお礼を言って携帯をしまい、タバコに火を付けた。
「今日中にはメール届くかな」
呟いた僕にスタッフが苦笑いしてきた。




パソコン画面に「新着メール」の画面が飛び出してきた。
さっき東京のスタッフに送った回答がもう来たのかな。
ちょっとは休憩できると思ったけど、とりあえず読んでおかないと。

見慣れないアドレスからの件名には【ウツ】とあった。

【メールできるようになったよ。そっちは忙しい?】

え?これウツ?ホントにウツ?
ビックリしてその短い文章を何度も何度も読み返す。

ウツだ。
メールって・・・これ携帯からだ。
一生懸命携帯を握り締めてこの文章を作っているウツが目に浮かぶ。
それを僕宛に作ってくれてるウツが目に浮かぶ。

慌てて返信を書いた。
何も考えずにキーをパチパチと打つ。
「どうしたんですか?」
不意に後ろから声がして思わず振り返った。
「なに?」
「いや、なんか楽しそうにキーを打ってるんで」
マネージャーはニヤニヤしながら画面を覗き込んだ。
「ウツからね、メールがきたの。すっごくない?ウツだよ。ウツがメールしてきたの」
興奮気味にまくし立てた。
「へーウツさんメールするようになったんですね」
「これ、事件だよね」
呟いた僕は作ったメールを東京にいるウツへと送った。




着信音が鳴る。でもすぐ消える。
「あれ?切れちゃったよ」
携帯を開けると、はじめて見るメッセージがあった。
「新着メールあり?・・・あ、メールが来たよ」
僕のことばにスタッフがすっ飛んできた。
携帯のことばを言えば、きっとこのスタッフはどこにいても駆けつけてくれるだろう。
「返信じゃないですか?」
「さっき送ったヤツの?すっげ!そんな早く届くんだー」
関心してる僕は放っとかれ、スタッフはまた暗号を言い出した。
「右のボタンをちょっと長めに押してください。受信BOXに行きました?したらそのメールを選択するんです」

てっちゃんからのメールの件名は【わーい!】だった。
なんだかものすっごい長いメールが入っていた。
喜んでくれてるみたい。
ちょっとメールをしてみただけなのに、こんな喜んでもらえるとなんか恥ずかしいな。

ずっと一緒にはいるけど、こうして文章で伝えあったことはないかもしれない。
手紙なんて書いたことないしね。
新鮮な気持ちになった。
「メールって楽しいね」
呟いた僕にスタッフが安堵の表情を見せた。




ウツが新しい携帯を買ったらしい。
昨日家の電話にかかってきて、さっきウツの携帯に電話をしてみた。
メモリー登録とゲームは完璧だって言ってたけど、携帯はそれだけじゃないんだよな。
インターネットが出来ること、言ったけど伝わったかな。

「新着メールあり」
まさかウツから?

【すっごいよー!ウツからメールが来たよー!!】

てっちゃんからだ。
なーんだ。ウツ、ちゃんとやってんじゃん。
やけに嬉しそうなてっちゃんからのメールを読む。
「大事件だよ!」ってことば、分かる気がする。

「・・・俺にはいつくるんだろ」
呟いた俺のことばはウツに届くのだろうか。

[20040229]

モドル