||| カギ |||

タバコがない。
ないとなると吸いたくなる。
しょーがねーなー、買いに行くか。

でも歩いてくのはかったりーよな。
そうだ。自転車で行けばいいんだ。
乗るのは春からって決めてたけど、春はTMで忙しくなりそうだから乗れそうもないし。
せっかくメンテナンスに出したんだから乗っておこっかな。


あっれー?
鍵ないじゃん。
どこやったんだっけ。
確かここに入れておいたんだけどな。
ダメだ。
ない。
ないもんは、ない。




「・・・で、だから俺に電話してくるわけ?」

レコーディングスタジオから帰ってきて着替えようとした瞬間、携帯が鳴った。
TMのレコーディングとは言っても、なかなか3人で集まることはない。
集まらなくても出来てしまうって言うのが正しい言い方かもしれない。

「だって鍵ないんだもん」

なんでかな。
なんでこんな甘ったれなんだかな。

ステージや雑誌に出ている宇都宮隆しか知らないファンに見せてやりたい。
そんなウツを「カッコ良いよね」って言ってるファンに見せてやりたい。

「自分のことくらい自分でしてくれ。あとのことは俺たちがなんとかするから」
ってもう何回、何十回、何百回言ってきたんだろう。
三つ子の魂なんとかってヤツか?
ウツはちっとも変わらない。

「一緒に探してよ」

・・・え?
今なんて言った?
そうくるのか?そうなのか?
「タバコ買ってこい」とか「車出せ」じゃないのか?
今からウツの家に行って一緒に鍵を探すのか?

「探せよ、ひとりで」
「なんでだよ」
「なんでだよ?」
思わずそっくりそのまま同じことばを返した。
「近くにいんだろ。ヒロシとか。呼べよ」




木根ってホントに出不精だよな。
いーじゃん、鍵くらい一緒に探してくれたって。

猫が足元にジャレてきた。
「鍵どこにあるか知ってる?」
聞いてみても返事はない。
当たり前か。

どこやっちゃったのかな。
ないとなると、乗りたくなるんだよな。

半分意地になって足元でジャレてる猫をそっと抱きかかえてソファに座った。
「どこだっけ。どっか仕舞い込んだのかな」
猫をそっとなでながらグルリと部屋を見渡してみる。
溢れ返ってる「捨てられないモノ」たち。

「捨てたってことはないよな」
そのままソファに体をあずける。
今日もまた過酷なスケジュールを入れてくれたマネージャーが頭をよぎった。




3回ベルを押しても応答ナシ。
「鍵、見つかったのかな」
もう1回押そうとした瞬間、ドアが開いた。

「にゃに?」
ドアの隙間から現れたウツは、寝起きだ。



「やっぱさすが木根!来てくれると思ったんだよね」
嬉しそうにウツは木根を部屋の中へ案内した。
「来ちゃうんだよね、俺」
さみしそうに木根はウツに部屋の中へ案内された。

「見つかったの?」
「え?あ、鍵?」
「鍵以外に何があんだよ」
「見つからなかったよ」
「探さなかったよ、の間違いだろ」と、言いかけたことばは飲み込んだ。

「とりあえずタバコは買ってきたから」
「あーありがと」

ウツはそそくさと箱を空け、一本取り出しておいしそうに吸い込んだ。

木根はグルリと部屋を見渡す。
「相変わらず捨てられないモノばっかな部屋だな」
ウツはくすぐったそうに笑った。
「どこやったんだよ、ちゃんとしまっとけよ」

グルリと部屋を一周した木根はテレビの上に何か見つけた。

「あるじゃん」
それは紛れもない自転車の鍵だった。

「あー!そうだ。前も乗ろうと思ってやめてそこに置いたままだったんだ」
「どうすんの?」
「なにが?」
「これから乗るの?」
「んータバコあるからもういい。そこらへん置いといて」
「そこらへん置いとくからなくなるんだろ。玄関とこに置いとくから」

パタパタとスリッパを鳴らして玄関へ行く。
鍵をかけてから、戻ってくる。

寝てる。
ウツは猫と一緒にソファに埋もれて寝ていた。

「瞬間芸か?」

呆れてウツを揺さぶり起こす。
「ベッドで寝ろよ」
「うん」
素直に寝室へ行くウツ。
「俺、帰るからさ」
「うん」




帰りの車の中。
「俺は一体何をしてんだ?」
呟く木根に答える人間はいない。

「自分のことくらい自分でしてくれ・・・」
させなかった俺のせいなのかもしれない。

ちょっぴり寂しげであり、ちょっぴり嬉しそうな木根は家路を急いだ。

[20040303]

モドル