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||| コート ||| 「どっちがいいと思う?」 嬉しそうに鏡の前でふたつのコートを自分にあてながら、テツヤはウツに聞く。 「ねえねえ」 黒いコートと、フード付きのコート。 今度は後ろにいるウツに見えるように振り返ってまたコートをあててみる。 「んー。どっちも良いんじゃない?」 ウツは黒いコートの袖を少しだけ触るとテツヤに笑顔を向けた。 「・・・ウツ〜」 あまり気乗りしてないように見えるウツにテツヤはヤキモキ。 「両方買ってあげるよ」 「・・・めんどくさいの?」 テツヤはちょっとしょんぼり。 下を向き、両手に持ったふたつのコートを眺める。 「どっちも気に入ったんでしょ?」 気乗りしてないわけじゃない。 テツヤが両方気に入っているのなら両方買ってあげたい。 そしたらテツヤの笑顔も2倍になると、ウツは思っていたのだ。 「ウツどっちがいいと思う?」 そんなウツの気持ちも知らず、テツヤはウツに尋ねた。 ちょっと混乱してくるウツ。 「お金の心配なんてしなくて良いんだよ?てっちゃんの誕生日プレゼントなんだから」 「そうじゃなくて!!」 ちょっと強く言い放つとテツヤはふたつのコートを抱えて店の奥に行ってしまった。 「・・・あれ?」 わけがわからないウツ。 「いいの?あのコート気に入ったんでしょ?ずっとコートほしいって言ってたじゃない」 雑誌をよくテツヤに見せてもらっていた。 「新しいコートがほしいな」とテツヤは言っていた。 そろそろテツヤの誕生日。 「なら、プレゼントするよ」 と、テツヤのお気に入りの店へふたりでやって来たのだ。 でもけっきょく何も買わず、今ふたりは近くの喫茶店にいる。 アイスティーに信じられないくらいシロップを入れてグルグルかき回すテツヤは、ちょっと怒ってるように見えた。 「買ってもらうのはイヤ?」 ウツにはやっぱりテツヤがわからない。 「・・・そうじゃなくって」 なんでウツはわかってくれないの? テツヤは激甘なアイスティーをグビグビっと飲んだ。 ウツが好きなコートを着たい。 ウツ仕様な自分になりたい。 だからウツに選んでもらいたかったのに。 テツヤは目の前でコーヒーを飲んでいるウツに目を向けた。 「ん?」とテツヤはウツを覗き込む。 「・・・なんでもない」 「今年は新しいの買わないんですか?」 仕事帰りにうちまで車で送ってくれたマネージャーに言われた。 「毎年新しいの買ってるじゃないですか」 テツヤを乗せた車は、ゆっくりとテツヤのマンションの前に止まった。 「・・・買うよ」 それだけ言うと、テツヤは車を下りた。 「明日、お昼から打ち合わせですから。ちょっと早目に迎えにきますね」 マネージャーはそう言うと、車を発進させた。 買わなかった。 あの日以来ずっとウツに「買いに行こう」と言われ続けたが、行かなかった。 「去年着てたコート。あれ好きだってウツ言ってたし」 でもやっぱり胸が痛む。 ウツにコートを選んでもらえること、楽しみにしてのに。 家に入ると先客がいた。 ウツだ。 「あれ?今日って・・・」 ビックリするテツヤにウツはニヤっと笑う。 「仕事が早く終わったんだ」 ビールの缶を振りながら「テツヤの分、冷蔵庫に入ってるよ」とウツは言った。 テツヤはカバンをソファに投げるとキッチンに向かった。 「・・・あれ?」 キッチンのドアの前に無造作に置かれたちょっと大き目な紙袋。 ビールを冷蔵庫から取り出し、紙袋を抱えてウツのいるリビングに戻った。 「これ、どうしたの?」 紙袋をウツに見せる。 「テツヤのだよ。開けてみて」 ウツはタバコを取り出し火を付けた。 テツヤは紙袋を開け、思わず声を失った。 「・・・コート?」 中には黒いコートが入っていた。 「てっちゃんがほしがってたのとはちょっと違うけど、こっちの方がてっちゃんに似合うと思ってさ」 ウツは優しく微笑んだ。 コートを握り締めながら固まってしまったテツヤ。 「気に入らなかったらまた買いに行こう。それは着なくても良いし」 ウツはテツやからコートを取ろうとした。 が、それより早くテツやはコートを身にまとった。 「似合う?」 ちょっとポーズをとってみたり。 「うん。すっごく。思った以上に似合ってるよ」 ウツは笑顔でタバコを口にくわえた。 「ありがとう」 そう言いながら、テツヤはウツに抱きついた。 「うわっ」 咄嗟にタバコをテーブルの灰皿に置き、焦るウツ。 「そんなに喜んでもらえると、選んだ甲斐があったってもんだよね」 抱きついたままテツヤは動かない。 喜んでくれるかな?なんて心配したウツだったが、ちょっと面食らってしまった。 「ただのコートだよ?」 ウツはテツヤの髪を撫でながら囁いた。 「違うの」 「ん?あ、もしかしてこれ欲しかったとか?」 「・・・違うの」 なんだかよくわからないウツはテツヤを覗き込む。 「嬉しいの。ウツが僕のために選んでくれたって言うのが」 テツヤはぎゅっとウツにしがみつく。 ウツはひらめいたように笑った。 「なーんだ」 「それ、かわいいですねー」 予告どおり、ちょっと早目に迎えに来たマネージャーに言われた。 「でしょ?」 ウツ仕様の自分に目眩がするほど幸せを感じてるテツヤは、ニンマリと笑った。 [20040314] |