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||| 2. HE GONE ||| キネから電話があった時、ウツは夢の中にいた。 電話が鳴っているリビングがやけに遠く感じる。 フラフラと歩いて行きながら、着替えもせず寝ていた自分に気が付いた。 「寝てただろ」 キネはいつだってウツの行動を見透かしたような言葉を発する。 それがあながち外れじゃないばっかりに、ウツはいつも素直に笑う。 「集まったよ。テツもカツラギもワタルもマットシもいる。来いよ」 キネの声の後ろからは、懐かしい笑い声が聞こえてきた。 「わかった」 それだけ言って電話を切る。 シャワーを浴びに風呂に行きながら、ウツは無意識にみんなの顔を思い出していた。 「やーっと来ましたか!」 ウツがキネの部屋に入る頃には、それぞれがそれぞれの酔いつぶれ方をしていた。 「もうできあがっちゃってるの?」 そんな変わらない仲間の輪の中に入っていく実感をかみ締めつつ、ウツは照れたように笑った。 「来るのがおっせーんだよ」 たぶん一番に酔いつぶれたであろうマットシが、呂律の回らない口調でウツに絡む。 手にはハイネッケンの瓶が握られていた。 キネ自慢のソファにはテツが座っている。 そのソファからテーブルを挟んで向かいの壁に寄りかかって座っているのはワタル。 その隣でなぜかギターを持って座っているのがカツラギ。 ウツのいるところから真正面にいるのが、すでに酔いつぶれているマットシ。 ウツを迎えに玄関まで来たキネは、テーブルの側にある机の椅子に腰掛けた。 さっき机に散乱してた紙たちはキレイにどこかへ整理されたらしく、机の上にも酒やおつまみが並んでいた。 ウツはやっぱり、ソファとテーブルの隙間にスッポリと埋まった。 「好きだなーそこ」 今回そのことばを言ったのはワタルだった。 「ワインでいいの?」 カツラギは空いてるグラスを適当にウツの前に置き、赤ワインを注いだ。 「注目!」 さっきはキネが座っていたそこに座っていたテツがソファの上に立ち上がる。 「ウツが突然いなくなったのは、忘れもしません4月の21日。春でした。今は冬です。もうすぐでクリスマスです。ウツは8ヶ月もどこで何をしていたのでしょう。でも帰って来てくれたウツに、とりあえず乾杯!」 テツはそう言うと、自分の持ってるグラスをウツのグラスに当てた。 カチンっとキレイな音がした。 「おかえり」と言ったのはキネ。 「いいよなーウツはなんか」と言ったのはカツラギ。 「帰ってこないかと思った」と言ったのはワタル。 「なーにやってたんだよ。女できたか?」と言ったのは・・・酔いつぶれている・・・マットシ。 ウツはクシャっと笑顔を作り、ワインを飲んだ。 ひとしきり喋り終わった頃、マットシは睡眠時間に突入していた。 そんなマットシにキネが寝室から毛布を持ってくる。 受け取ったワタルはマットシにかけてあげる。 「死ぬぜ?そんな窓際で寝てたら。冬なんだし」 笑いながらカツラギはマットシを見た。 「でもマットシ珍しく酔ったよな。最近全然飲まなくてさ」 ワタルはマットシの寝顔を見ながら呟いた。 「ウツが帰ってきたんで嬉しかったんだろ」 椅子に座り直し、タバコに火をつけたキネはマットシを微笑ましく眺めた。 「俺だって嬉しいぜ?」 カツラギはギターを鳴らした。なぜかマイナーを。 「嬉しくないんじゃない?」 ウツは笑った。 「あれ、なんでマイナー?」 カツラギは知ってる限りのコードを鳴らしはじめた。 それがいつのまにかひとつの曲になり、それに合わせてウツは何気なく歌いはじめた。 「・・・あ、歌っちゃった」 途中でやめてウツは笑いながらワインに口をつけた。 「なんだよ、聞いてたのに」 ワタルは心底さみしそうに呟いた。 「ウツの歌を聞くなんていつぶりだろ」 「いなくなる前も、でもその前から全然歌わなくなったよな」 「やめてくれって言っても昔はずっと歌ってたのにな」 それぞれが話し出す。 それを黙って聞きながら、ウツは天井を仰いだ。 この上にある空をずっと辿っていけば、その下にあいつがいる。 もう会うことのない・・・ ふいに自分の中に現れたことばに、ウツは慌てて首を振る。 「なんだ、酔ったのか?」 そんなウツを見逃さないワタルは笑いながら言った。 「酔ってないよ。・・・そんな歌ってなかった?」 ウツの問いかけにまたみんながそれぞれのことばを発する。 「今カツラギと作ってる曲はね、ウツに歌ってほしいんだ」 テツがふいに話しはじめた。 「ウツがいなくなってから、ずっと頭の中で同じメロディが流れてて、それを曲にしてみたの」 「そしたらウツが帰ってきたんだよー」 カツラギがテツの声を真似して続けた。 テツは少しふくれっ面をしつつ、めげずに続けた。 「だからあの曲が出来たら絶対歌ってね」 笑顔だけど、テツの目には独特の力が込められている。 そんなテツの目をウツは正面から見ることができず、「そうだね」と言ってタバコを手に取った。 「しばらくはいるんだろ?」 ワタルはウツに問いかけた。 「しばらくー?ずっといてよ」 テツはワタルのことばを否定した。 「・・・いるよ、きっと」 そんなふたりを嬉しく思いながら、それを表現することができず少しぶっきらぼうにウツは答えた。 「とりあえず飲んでおこう」 キネはいつの間に冷蔵庫からありったけのビールを持ってきてテーブルに並べた。 「マットシとワタルが買い占めてきたんだよ」 「店員がさ、もうやめてください!って泣いて叫んでさ。これ以上買われたら、売る商品がなくなりますーって」 キネの言葉にワタルが笑いながら続けた。 6人(内ひとりすでに爆睡)は、時のたつのを忘れ、ひたすら飲んで喋って笑いあった。 >> [20040306] |