||| 1. HE RETURUNED |||

「ちぃーっす!!」
「あー!ウツ!いつ帰ってきたんだよ」
「今」

今ここに着いてそのまま、荷物を持ったまま、ウツはキネの部屋を訪ねてみた。
まだ自分の部屋には帰ってない。

「あいかわらずだねー進んでる?」

玄関から部屋を覗き込む。
散らばった紙たち。
グシャグシャに丸められたのもあるし、破られてるのもある。
机からただ舞い降りただけなのかな?と言うキレイな紙までも、全てが部屋に散乱している。

「ダメダメ。ぜーんぜんダメ」
キネはわざとらしく大きくため息をつくと、ウツを部屋の中へ招きいれた。



「ホントにそのまんま来たんだな」
ウツの隣に寄り添っている大きな鞄を眺めながらキネは言った。
「ありがと」
キネからコーヒーを受け取ると、ウツは思いっきりその香りを吸い込んだ。
「帰ってきたーって感じがする」
「そのコーヒーで?」
返事の変わりにウツはコーヒーをひとくち飲んだ。

「どこ行ってたんだよ」
「ん?」
コーヒーをテーブルに置き、ソファからずり落ち下に座ったウツは、隣でちゃんとソファに座っているキネを見上げた。
「そこ好きだねーなんで下に座るかな。うちのソファはけっこうフカフカだと思うよ」
「・・・ここがいいんだよ」
ソファとテーブルの小さい隙間にスッポリ落ち着いたウツはニッコリ笑った。

「テツかなり死んでたぜ?」
ソファの背もたれに体をあずけ、キネは天井を仰いだ。
ウツもキネと同じように天井を仰いでみる。


キネの部屋の真上には、テツの部屋がある。


「どこにいたんだろ」
ウツの声は上を向いているせいで少しかすれた。
「・・・とりあえずしばらくはここにいるよ」
そしてそのままウツは目を閉じた。

「とりあえずってさ、ここがウツの家だろーが」




大きな鞄を担ぎ、ウツは手を振った。
「今日はどうすんの?すぐ寝る?」
階段を上がろうとするウツにキネは呼びかけた。
「うーん・・・わかんない。なんで?」
「せっかくだしさ、うちに集まろうよ」
「・・・集まったら教えて」

階段をゆっくり登って行くウツをキネは眺めていた。
「相変わらずだよな。みんなあんな心配してたのに」




テツの部屋の前を通りすぎ、自分の部屋の前に着く。
鞄から鍵を取り出し差し込もうとした瞬間、テツの部屋のドアが開いた。
出てきたのはもちろんテツだった。

お互い、しばらく相手を凝視。
沈黙を破ったのはテツだ。

「いつ帰ってきたの?なにしてたの?どこ行ってたの?すーっごい心配したんだからね!」
駆け寄ってきたテツに、ウツは身構えた。
「ただいま」
腰は引けつつも、笑顔で答えた。
「質問の答えは?」
ウツより頭ひとつ小さいテツは、ウツを下から睨みつけた。
「・・・ただいま、てっちゃん」
もう一度、ウツは笑顔で言った。
「あ、おかえり。で?どこ行ってたの?」

下を向いてしまったウツの視線を追って、テツも下を向く。
「・・・ごめん。でもすっごい心配してたんだからね」
「うん。心配かけてるかなーって思ってた」
「反省してる?」
「うん」

少し顔を上げるとテツの笑顔が目に入った。

「今日はすぐ寝ちゃうの?」
キネと全く同じことを言うテツにウツは笑ってしまった。
「なにがおかしいの?」
「いやいや・・・キネがね、なんか今夜やるらしいよ?」
「キネくんにはもう会ったの?」
「ちょっとだけね」

そこでウツは気付いた。
テツより先にキネに会いに行った自分に。
テツの部屋の前を素通りした自分に。

「なんか用があって出てきたんじゃないの?」
ウツの言葉にテツはパっと顔を赤らめた。
「そうだ!これからカツラギに会うんだよ。今度の曲にはカツラギのギターを入れようと思って」
「早く行かないと」
「そーだね。じゃ、またあとでね。ウツが帰ってきてくれて本当に嬉しいよ」
テツはバタバタとカツラギの部屋がある階下へ下りて行った。


キネの部屋の隣には、カツラギの部屋がある。


握り締めていた鍵を差し込んだ。
こうしてこのドアを開けるのはいつぶりなんだろう。
つい昨日もこうしていたような、もう何年も前の話しのような。

部屋に入っても大して懐かしさを感じることはなく、そのまま寝室に直行した。
鞄をベッドの上に放り投げ、それを枕にベッドの上に横たわる。

見上げた天井の上に部屋はない。
あるのは空だけ。
その空をずっと辿っていけば、その下にあいつがいる。
もう会うことのないあいつが。

階下からギターの音が微かに聞こえた。
テツとカツラギが打ち合わせでもはじめたのだろうか。


ウツの部屋の真下には、カツラギの部屋がある。


ふたりのセッションを聞きながら、ウツは目を閉じた。

>>

[20040306]

モドル