本心〜二人が見つめるもの〜
「…のことどう思ってる?」
「んぁ?いちいーちゃん今何か言った?」
「あっ、いや別に…何でもないよ」
「え〜今絶対ごとーに何か言ったよ。だって今二人しかいないじゃん」
後藤の言うとおり他のメンバーは今楽屋にいない、二人っきりだ。でも…
「だから何でもないよ」
「嘘、嘘、何〜?」
「あ〜もう!何でもないって言ってるだろ」
私はいつもより強い口調で言ってしまった。
「ぶー、もういちーちゃんなんて知らない!」
あちゃーやっちまった。後藤を怒らせちゃったよ。
明らかに私が悪いんだけど、そこまで怒ることないだろ。
だって聞けないよな
『私のことどう思ってる?』
なんて。いくら二人きりって言っても恥ずかしいしさ。
もう一回聞こうにも後藤は今機嫌が悪…くもなさそうだ
さっきと変わらず左手でお菓子を口に運びながら右手で
雑誌を見ている。よし、もう一回聞いてみるか。
「ごと…」
「(プイ!)」
怒ってるつもりなんだろう、それでも私から見ればそうは見えない。
むしろいつもよりかわいい。ふくれっ面の後藤もいいなぁなんて思っちゃったり
してる場合じゃないよ。あ〜またタイミング逃したよ。私っていつもそうなんだよな
後藤相手ならなおさら、弱いな〜私って。
ハハハおかしいよね、自分でも思う。何でこんなこと後藤に聞こうと思うのか
まぁ私と後藤が普通の関係じゃないってことはメンバーも私も、もちろん後藤も
わかってると思うんだけど(裕ちゃんとやぐっつぁんみたいにね)
だけど心配になったんだ、それはこの前のオフに後藤と一緒に
買い物に出かけた時のことだった。
オフはここのところ全然なくて、いつ以来かわからないくらい久しぶりだった
私は今日ぐらいゆっくり家で一日を過ごそうと思っていた。
せっかくの休みなのに何か虚しいような気がするけど実際、娘。のハードスケジュールで
休みが全然ないんだからこう思っても仕方ないように思う。
しかも人ごみが嫌いな私は一人で外に出かける考えなかったし。
ふと時計を見るとまだ8時を少し過ぎたところだった。
やっぱ私って早起きなのかな?
まぁいいやもう一眠りするか、そう思った時
「ピンポーン!」
チャイムが鳴った。誰だ?こんなに朝早く、ったく寝ようと思ってたのに
ちょっと腹が立った。だけど玄関まで行き、小さな窓から外を覗くと
それも和らいだ、むしろ喜んだ。やっぱ私はこいつには弱いわ(笑)
「いちーちゃんいるんでしょ〜、起きてる〜?」
後藤だった。こんな朝早く後藤がくるなんて珍しい。
しかもただ私の家に遊びに来たわけではないみたいだった。
だって明らかに格好がよそ行きなんだもん。
どうせ出なくても、出るまで待ってるということはわかっていたけど
なんだかせっかくオフの日に遊びに来てくれたのに悪いなと思ったので
素直にドアを開けた。
「何ー?後藤、今日は何か用?」
わかってるのに聞く私って馬鹿だなぁ
「うん、今日久しぶりのオフだし、いちーちゃんと買い物にでも
行こうと思ってさ」
予感的中。だてに後藤と長い時間いないってんだい。
「それにしても早いよ、何時だと思ってんの?」
「だっていちーちゃんと一緒に行けると思ったら寝られなかった
んだもん」
く〜こいつなんて可愛いんだ、私おかしくなりそうだよ。
一緒に寝たい…ってそれはいかん、いかん。
「でもまだ着替えてないしご飯も食べてないんだよ、後藤は
ちゃんと食べてきたの?」
「ん〜ん、どうせいちーちゃんも食べてないと思ったから一緒に食べようと
思って食べてきてませーん」
うっ、なんか後藤の方が私を知ってる気が…
「ふ〜ん、じゃ入って、私作ってあげるから」
「いーよ、いーよ、私が作る。だからいちーちゃんは着替えてきて」
「はいはい、わかりました。よろしくお願いします」
「じゃおじゃましま〜す」
ものすごく嬉しそうに後藤は私の家に入ってきた。
「いちーちゃんの部屋って汚いね」
「お前には言われたくないよ、後藤の部屋の方が汚いだろ?」
「アハッ、お互い様だね」
「そうか?じゃ着替えてくるから」
「うん、じゃご飯作って待ってまーす」
今日は出かけるんだよな、何着て行こう。
普段出かけないからな〜、これでいっか。
私が着替えて出て行くともうご飯が出来ていた
「いちーちゃん遅いよ、待ちくたびれちゃった」
思ったより時間がかかったみたい。
「あ〜ごめん、ごめん」
「「いただきま〜す」」
二人でご飯を食べはじめた、実はこの光景は珍しくない
よく後藤に朝ご飯をつくってもらっている。オフの日は。
そして決まって
「おいしい?いちーちゃん」
「おう、おいしいよ後藤」
もう決まったようなセリフ、まぁ本当においしいから
いいんだけどね、こういう時後藤に惚れちゃうな〜家庭的だし。
そんなことを思ってる間に食事も終わって
「よし!いちーちゃん一緒に出かけよう」
「よしよし、そうくると思ってちょっと服選んだんだけど、どう?」
「ふふん、いちーちゃんらしいよ、ジーパンにTシャツ」
「だろ?やっぱこれだよ、じゃ行こうか」
そして後藤と二人で家を出た
私たちはすべていつもどおりだった
いつもどおり渋谷へ買い物へ行き
いつもどおり後藤がはしゃいでいる
いつもどおり私は荷物を持ってついて行く
普段こんなことしてたらただ疲れが溜まるだけだけど
後藤と一緒にいられることでそれも感じない
「いちーちゃん、早く早く〜、こっちこっち」
「歩くの速いぞ後藤、荷物持ってるこっちの身にもなれよ」
「エヘヘ、ごめんね、いちーちゃんと一緒にいると幸せだから
ついつい」
「この〜嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか、こいつ〜」
私は頭を撫で撫でしてあげた
「デヘへへヘ〜、大好きいちーちゃん」
「私もだよ。後藤」
私たちは人前だということも気にせず、軽くkissをした
だけど平日とはいえ渋谷には人がたくさんいる
さすがに私たちに気づいたらしく、歩いている人は私たちをチラチラ見ていた
ただ私が他の人には男の子に写ったようで、それほどおかしな目で見られなかった。
もちろん少し変装して行ったので娘。だとバレることはなかった。
「それじゃ行こうか」
「うん」
買い物も終え、近くのパスタ店で昼食を食べることになった
「おいし〜ね〜ここ」
「そうだね、まぁ後藤の手料理にはかなわないけどな」
「エヘへありがと」
「ハハハハハ」
私も幸せだった、相手が後藤だからだろう
圭ちゃんややぐっつぁんともよく食事にいくけど
こんな気持ちになることはない
「それじゃ次どこか行く?」
「う〜んいちーちゃん家」
これまたいつもどおり。実は私たち意外と行くところ
ないんだよね、あんまり色々出かけるとバレちゃうこともあるし
「そうだね、私疲れたし」
「ねぇねぇいちーちゃん、本当に気づいてないの?」
「えっ、何のこと?」
「来週だよ〜」
「来週?何かあったっけ?」
私は知っててごまかした。来週は後藤の誕生日なのだ
「んもう、いちーちゃんイジワルだな〜来週は後藤の誕生日だよ」
「悪い悪い知ってるよ、ちょっとイジワルしたかっただけ、
そうだな、家に行く前にプレゼントでも買いに行くか」
「やった〜、行こ行こ」
私たちはお店をでてブラブラ歩いていた
するとすぐに街頭でアクセサリーを売っている店を見つけた
「そういや、後藤前指輪欲しいって言ってたよな、どれがいい?」
「ん〜いちーちゃんが選んでくれれば何でもいいよ」
「そうか〜どれにしような〜」
でもこういうの困るんだよな、下手に選んでセンス悪いとか言われたくないし
ふと前を見るとお店の人が私たちに気づいたみたいだった
そりゃそうだ目の前で後藤とかいちーちゃんって言ってるんだから
だけど気を使ってくれてるみたいで知らないふりをしてくれた
ありがとう、お兄さん
「じゃあこれなんてどう?」
特にこれといった特徴もないシルバーのシンプルな指輪を選んだ
その理由はこの指輪にはイニシャルを彫ってくれると書いてあったからだ
「わ〜こういうのいいね、ロマンチストいちーちゃんらしい、
でもこれ買うんだったら私といちーちゃんと二つ分買わなきゃ
意味ないんじゃない?」
そうだった、でもいいか自分がこれどう?と言っておいて
変えるのもなんか後味が悪い
「そうだね、それじゃすいませんこれ二つください」
お兄さんは『はいわかりました』と言ってイニシャルを彫り始めた
後藤は特に気にしなかったみたいだったが、私は思った
やっぱりこのお兄さん私たちのこと気づいてるよ、だって
名前も聞かずにイニシャル彫ってるもん
「できましたよ」
「わ〜い、いちーちゃんできたって」
「お、おう、じゃちょっと早いけどこれ誕生日プレゼント」
「ありがとう、もちろんいちーちゃんのは私がもらって
私の名前が入ったのはいちーちゃんのね」
「はいはいわかってますよ」
わたしは後藤と指輪を交換した
すると後藤はなんの迷いもなく左手の薬指に
その指輪をはめた
「ほらほら、いちーちゃんも同じ位置にはめてよ」
「わーったよ、ほら」
私はスッと指輪をはめた、ちょっと不思議な感じがした
「それじゃ、いちーちゃんの家にレッツゴー!」
後藤はこの日一番嬉しそうな顔をして言った
この時私はこう思っていたに違いない
後藤は私が後藤を好きなのと同じくらい後藤も
私のことを思っているという安心感が
後藤が私から離れることなどないと
二人は手をつないで駅へ向かった
二人の薬指は白く輝いていた
帰りは行きと同じように電車で帰っていった
その中で後藤は疲れたのかはたまた私が隣にいるので
安心したのかぐっすり眠っている
はぁ〜『疲れて寝たいのはこっちのほうだよ』と思ったが
そんな考えは後藤の寝顔を見た瞬間変わった
うっ、こいつの寝顔って絶対可愛いよな〜どんな男でも
この顔されて隣で寝られたら…駄目だ駄目だ、変な考えをするのはやめておこう
でもこんな顔は私にしか見せないんだろうなぁやっぱ私は幸せもんだ
そう思うとモーニングに入ってよかったよ。だけど入りたての頃は何するにも
失敗ばっかだったしよく怒られた。何でモーニングに入ってしまったんだろうって
何度も悔やんでたっけ、よく泣いてたなぁ。今でもあんまり直ってないけどね
でも後藤が入ってから私は変わった、というか教育係になってって言ったほうがいいのかな?
やっぱり立場的に後藤に弱いところが見せられなかったし、私が一番年下じゃなくなったから
変にお姉さんのような気分になったからかもしれない。他のメンバーには弱音を吐くこともあったが
後藤の前では絶対にしなかった。そこから私って頑張りキャラになったのかな?
よくメンバーにも
「紗耶香最近頑張ってるね」とか
「紗耶香の頑張り私も見習わなくちゃいけないね」
とか言われるようになった。強くなったんだ
これも後藤のおかげだと思う。こんな私を後藤がどう見てくれてるか
何か得たものがあったか私にはわからないけど、確実に私には得るものがあった。
人生山あり谷ありと言うけれど今は山なのかな
「ありがとうね、後藤」
回りには聴こえないくらいの小さな声で後藤に言った。
「ふぁ〜、あれ?寝ちゃったんだ、いちーちゃんどうしたの?」
いつのまにか私は後藤を直視していたらしい、慌てて姿勢を直すと
「何でもないよ、ありがとうね」
「んぁ?何か今いちーちゃんにしてあげたっけ?」
「いやいいんだよ、あっそろそろ降りるぞ」
「ふぁぁ〜い」
私たちは電車を降りて私の家へ向かった。
私の家は駅から5分程歩いたところにある
その間私たちは『今日は楽しかったね〜』とか言いながら
歩いていた。後藤はその間もチラチラと私が買ってあげた指輪を見ていた
結構気に入ってるみたいだ、よかったよかった
そうこうしている内に家に着いた
「ただいま〜」
「おじゃましま〜す」
朝9時ぐらいに出たのだが時計はもう4時を回っていた
「どうする?なんか遅くなっちゃったね、明日も早いし
来たばっかだけど帰ったほうがいいんじゃない?」
「い〜よ、い〜よ明日早くても今日はいちーちゃん家にいる」
「いいのか?着替えとか持ってきてないんだろ?それに家にも連絡しないと」
「大丈夫だって、実はもう家に言ってきたしさ、今日帰るかわかんないって」
「う〜んならいいけど、取りあえず落ち着こうか、もうくたびれちゃったよ」
「そうだね、まだご飯には早すぎるし、私は今日買った物確認するよ」
「ではご飯まで市井ちゃん充電モードで〜す」
「ゆっくり休んでくださ〜い」
それではちょっと休憩しようかな2時間ぐらい時間あるし
夜は二人っきりだし。ちょっと何考えてんだか(笑
後藤は買ってきた物を並べていた。鞄やら服やら結構買ったもんだ
その後私の部屋を色々見ていたみたいだけど別に隠すようなものもないし
いいかと思っていると急に睡魔が襲ってきて私は眠ってしまった。
「ん〜やっぱ寝ちゃったか、今何時だ?」
部屋の時計を見ると6時をちょっと過ぎたところだった
いい時間に起きれたな〜、ん?後藤はどこだ?
後藤が買った物は綺麗に並べられている
「ご〜と〜お〜」
あれ?いないぞ、ホントにどこ行ったんだ?
リビングから自分の部屋に向かうと後藤がいた
後藤は私に背中を向けていた。
「後藤、こんなとこで何やってんだ」
「………」
後藤は何も言わない、ん?何か様子が変だぞ
「どうしたんだ?後藤」
「い‥ちゃん…日どこ…てたの?」
「えっ、何だって」
「いちーちゃんこの前のオフの日どこ行ってたの?」
「だからこの前も行っただろ、ずっと家にいたって」
「ウソ…ウソだよ」
「ウソじゃないよ」
「ウソだよ、本当はやぐっつぁん家に行ってたんでしょ
さっき携帯に電話あったよ、この前家でなくしたピアス
見つかったって」
「何?電話あったの?何で勝手にでるんだよ」
「だって知らない人じゃなかったし、起こすの悪いかなって思ったから」
「だからって勝手に出るなよ、怒るぞ」
「もう怒ってるじゃん」
「何だと」
私は怒っていた、いくら後藤でも私の許可なしに電話にでるなんて
ちょっと説教でもと思い後藤に近づこうとしたその時だった
「何でいちーちゃんウソついたの?」
「はぁ?」
「何でいちーちゃんウソついたの?」
「嘘ついたのは悪いと思うよ、だけど…」
「だから何でって聞いてるの」
「ったく、たまには他のメンバーと遊んだっていいだろ?この事言うと
お前のことだから後からなんでやぐっつぁんなの?後藤も暇なのに
とか言うだろ?だからだよ。私だってたまには他のメンバーとも遊びたいんだよ
言っとくけど私は後藤、後藤じゃないんだぞ」
「……」
後藤はこちらを向いて微動だにしない、私を真っ直ぐに見ていた
少し距離があったが後藤の目が潤んでいるのが私にはすぐにわかった
しまった…。言った後から後悔した。しかし時すでに遅し
本当の私はどんな時でも後藤、後藤だったはずだ
ダンスの練習の時も他のメンバーといる時も何をしている時も
片時も後藤のことを考えなかったことなんてなかった
何でこんなことを言ってしまったんだろう
つい突発的に言ってしまった
よく考えてみると後藤は本当に私を気にしてくれてるからこんなこと言ったんだ
今までのちょっとくっつき過ぎだろって思う行動も私のことが表面的じゃなくて
本心から好きだったんじゃないか
それなのに私はそれも考えずにさっきみたいなことを…
私は後藤の気持ちを裏切ってしまったの?
「ごめん、ちょっと言い過ぎたよ悪かった」
「そうなんだ、そうだよねやっぱ私の勘違いだったんだ
私はいちーちゃんは私のことだけ見てくれてると思ってた
だから私もいちーちゃんを信じてたし、尊敬してた。
そんないちーちゃんが好きだったんだよ、それなのに」
「ちがっ…」
後藤は泣いていた、私はもうどうすればいいのかわからなかった
そして後藤は
「わかったもういいや、私だっていちーちゃんだけじゃないんだよ
圭ちゃんとかやぐっつぁんとかいるんだもん。いちーちゃんなんか大っ嫌い!」
えっ、私はそんなつもりじゃ…
『バタン!』後藤は部屋を出て行った。リビングに並べてあった物にも気に止めず
そのまま私の家を出て行ってしまった。
「後藤…」
私はその場に座り込んでしまった。
頬を伝って目から涙が流れているのがわかった
なんて私は馬鹿なんだろう
いつまでたっても失敗ぐせは直らないのかな?やっぱり私は
変わっていなかったんだ、後藤がいなけりゃ昔の私と同じだよ。
私の胸はポッカリ穴が空いたみたいだった
私の胸を今まで通ることのなかった風が吹き抜けていく
時間が流れているのことをその風は私に告げていた
そして私の頭をさっき後藤が言った言葉が何度も繰り返される
≪いちーちゃんなんか大っ嫌い!≫
あの日は3ヶ月以上も前のことなのに今でもつい昨日のことのように思える
あの日以来後藤は前のように私に接することがなくなった
オフはちょこちょこあったけど当然一緒に遊ぶこともなければ電話やメールもしていない
前はいちーちゃん好き好きと言っていたが、最後に嫌われてしまったみたいだった
しかし、皮肉にも仕事の方は順調だった
テレビではいつもの後藤だった、傍から見ると後藤はあの出来事を
気にしていないように見える、私のほうがギクシャクしていた
楽屋で喋ることも少なくなっていた。
それを他のメンバーも気づいていたらしく始めに圭ちゃんが
「どうしたの紗耶香、最近後藤と一緒にいないじゃん」
やっぱり圭ちゃんさすがだな〜と思ったがそんなこと考えてる場合ではない。
「いや、別に普通だよ」
全然普通じゃないんだけどそのことを認めたくなくてこんな風に言ってしまった
「そう、ならいいんだけど、後藤も最近楽屋で元気ないみたいだし」
圭ちゃんはそう言って楽屋を出て行った。
そういえば後藤も元気がなさそうだった、誰かに喋りかけられると普通に話して
いるのだが一人でいる時は何か考え事をしているようだった
「どうすればいいんだろう」
なかなか素直になれない私はため息混じりにつぶやていた
心配で心配で仕方がなかった、私から後藤が離れていっているようで
そして今二人の薬指は輝いない
それは私が故意に外したわけではなかった、外したくなかった
外すとそのまま後藤が消えてしまいそうだったから
それは突然起きた
あるテレビの収録で身につけているアクセサリーをすべて
外さなくてはならなくなった、その収録と言うのは
季節外れの心霊スポット巡りだった。何でも霊というのはそういった
念を持つ、いつも身に着けているものに乗り移ることがあるようだ。
ただ私はいつもこういう仕事が来るたびに娘。は何でこんな仕事を
やらなくちゃいけないんだろうといつも思っていたが仕方がなかった
私たちは渋々ネックレスや指輪を外していた
特にセクシー隊長のやぐっつぁんは一番嫌そうだった
それは多分アクセサリーをはずすことはもちろん嫌なんだろうけど
多分霊のほうの怖さの方が勝っていたみたいだった
私は霊より指輪をはずすのが嫌だった、だけどしょうがなく薬指から指輪を外した
収録が始まった。私たちはキャーキャー言いながらも順調に進んだ
そして収録も終わり私は飲み物を買ってから楽屋に戻った
皆がアクセサリーをつけ直していた、私もすぐにつけようと思い探すと
ない。何故か私の指輪がなかった
焦った。失くしてしまいたくなかった。
しかしいくら探しても見つからない。
圭ちゃんがそんな私に気づいたらしく
「どうしたの?何か失くした?」
と聞いてくれた、私は
「指輪がないんだよ、おっかしーな」
「一緒に探してあげるよ」
と言って探してくれた、今日の仕事はもう終わったので
他のメンバーは
「お疲れ〜」
と言って帰り始めていた、当然後藤も
私がふとその方向を見ると後藤の指にあの指輪がなかったのだ。
今日来た時は確かに指輪をつけていた。もしかしてつけ忘れかなとも
思ったが、ネックレスはしっかりつけていた。どうやらつけ忘れではないらしい。
もしかしてと思った。後藤は今日がたまたまいいチャンスなんだと思ったかもしれない。
今まで築かれてきた私たちの関係を忘れるための…
私の目には涙が溜まっていた。圭ちゃんはまだ探してくれている
私は涙を拭いてから
「探してくれて有難う圭ちゃん、もういいよそんなに大切なものじゃなかったし」
「え〜いいの〜別に好きで探してるんだからさ」
「いや、本当にいいんだ、もうありがと」
「ん〜紗耶香がそこまで言うならいいけどさ〜」
「うん、それじゃ圭ちゃんバイバイ」
「じゃ〜ね〜また明日頑張ろう」
私は家に帰って一人で泣いた、ベットのシーツは涙でグショグショになっていた
泣き虫の私がそこにいた
二人の薬指から指輪が消えてから1ヶ月たった。
私は後藤に話しかけることが怖かったが、やっぱり後藤への
気持ちは変わることなどなかった。
だから自分から積極的に後藤へ話しかけたりして、なんとか
他のメンバーと同じぐらいまでの関係までは取り戻すことができた。
ただその間後藤に何か違和感のようなものがあったがそこまで深追いはしなかった。
私は今なら自分のことを今どう思っているのかと聞けるんじゃないかと思った。
はっきり本人から聞きたかった。
ただ態度が変わらないとはいえ今の雰囲気は決してよくなかった。
また少しの失敗であの時みたいな思いはしたくないと思い
この日は言うのを諦めることにした。
また明日言えばいいんだ、慎重にいこう
しかし今は仕事が活発になる年末
クリスマスという1つの大きな行事は超えたが、
まだまだスケジュールを確認するのも嫌なくらい仕事は山のようにあった。
だからあの日から1週間近くたっていたがなかなか切り出せないでいた。
こんなことは二人っきりの時にしか言えないだろう。
やっぱりあの時言えばよかったかなと思ったが
過ぎてしまったことは仕方がないと割り切ることにした
そんなこんなで仕事をこなしていると、今年もついに最後の日が来た。
今年1年色々あって早かったなぁ、今までで一番早く過ぎたように感じた。
もちろん今年は大事な紅白がある。しかも初めての紅白だ。
緊張しないわけがない。
「今年も終わりだし、最後はビシっと決めようよ」
と楽屋ではその時間まで皆と話していた。
「せやけどやっぱ緊張するわ、紅白やもんなぁ」
いつもは強気の裕ちゃんも緊張しているみたいだった。
出番までもう2時間を切っていた。
「リハーサルちゃんと出来たから大丈夫だよ」
と圭ちゃん。
「そうだよ、皆いつもみたいにやれば大丈夫。そりゃあ初めてだから緊張しない
わけないと思うけど」
なっちも言った。
「せやから〜、初めてやからこんなに落ちつかんってゆうとんのや」
本当に裕ちゃんは落ちつきがなかった。
ガヤガヤと賑やかだったが、スタッフさんが来て
「みなさん、オープニング始まるんでそろそろ準備してください」
と声をかけられ急にシーンとなった。
スタッフさんはどうしたんだ?という顔をしていたが
「それでは、よろしくお願いします」
と言うと、次の部屋へ行ってしまった。
「来たで、よっしゃ、いくで〜」
と裕ちゃんは私たちに一声かけ楽屋を出た。
私も皆と揃って楽屋を出た。
オープニングは特にすることがなかくて順調に進行していた。
私たちの出番は2番目だった。
一度袖へ引っ込んででから裕ちゃんが
「よ〜し、ここまで来たらもう引けへんで〜
絶対成功させたろうやないかい、ええな?」
「「「「おう」」」」
「がんばっていきま」
「「「「っしょい」」」」
私たちの出番が来て、勢いよくステージに出た。
緊張というのは始まる前までで、いざ音楽が鳴り始めて歌が始まると緊張はとけた。
皆、自分の持っている力を出せているように思えた。だから私も皆に負けないように
精一杯歌を唄ったり踊ったりした。
私は今日こそ後藤にあの事を聞こうと決めていた。
そして紅白も無事終わった。私は今日は100点満点ぐらいの出来だったな〜と思っていた。
あとはエンディングに出るだけだったが私や後藤は年齢と時間の関係でエンディングには
出られなかったので先に着替えた。
エンディングまでにはまだ時間があったので
皆と今日のことについて話ていた。
「やっぱ緊張したよね〜、どうだったのかな?」
「でも内心結構いけたと思ってない?私はいけたと思ってるけど」
「そうさ〜よかったんでないかい」
皆も好感触だったようだ。
「みんなよう頑張ったで〜、今日は全員で乾杯や、飲むで!」
「「「「それは無理」」」」
勢いで言っただろう裕ちゃんに、皆は口を揃えて言った。
「なんや〜ケチやなぁええやないか、今日ぐらい、冷たいで〜
まぁええわ、私にはみっちゃんがおるさかい」
裕ちゃんはちょっとすねていた。
そんな楽しい会話が続いていた。
楽しい時間はあっと言う間に過ぎていった。
そしてエンディングの時間が迫ってきた。
「ほな、わいらは行ってくるで紗耶香たちは待っとるんやで
あとテレビ点けてちゃんと見とけよ」
「はい、はい。それじゃあ皆行ってらっしゃい」
「「「「行ってきま〜す」」」」
私や後藤は皆を見送った後、
「あ〜あ今日はよかったよな〜、なぁごと…」
振り返りながら見ると後藤が真剣な目で私を見ていた。
「ねぇいちーちゃん、あのさぁずっと言おうと思ったんだけどさ」
改まった感じで私に話しかけてきた。
私もそれを感じて座りなおした。
「話ってなに?」
「あのさ、ずっと言えなかったんだけどあの日のこと覚えてる?」
私は何を言われるのか正直怖かった。
こういう時に弱い私は最悪の事態を予想していた。それは…
『後藤との別れ』だった。
これをもし後藤本人から言われたら私は予想もつかないような
絶望感に打ちひしがれるだろう。
だけど、私は黙っていては何も変わらないと思い勇気を出して聞いた。
「ああ、覚えてるよ、あの時は本当に悪かった」
「いーよ、今は全然気にしてない。だって私もあの後よく考えたんだ。
そしたらやっぱ私も色々いけないことがあったもん、私こそごめんね
それで…」
私は素直に嬉しかった。ようやく後藤と仲直り出来たんだ。
ただ、元はと言えば私から始まったことなのに
私から言えなかったことが悪いなと思った、いやむしろ
すぐに言えなかった臆病者の自分に腹が立っていた。
「……。ちょっといちーちゃん聞いてる?」
「うん?あっ、聞いてる、聞いてる」
「ほんと?もう、だから〜今日いちーちゃんの誕生日でしょ」
「おお、そう言えばそうだね、最近忙しくて自分の誕生日も忘れてたよ」
あらららら、そういえば今日私の誕生日じゃん、前にテレビで
私の誕生日は大晦日なんで覚えておいてくださいとか言ってたのに
自分が忘れてたよ。駄目だなぁ
「それで、プレゼントがあるの」
「えっ?マジで?ありがとう、すっごく嬉しいよ」
「欲しい?」
「そりゃ欲しいよ」
「じゃあ一つだけ私の質問に答えてくれる?」
「いいよ、何?何?早く言えよ」
「………」
「………」
「いちーちゃんは…私のこと…どう思ってんの?」
「えっ?」
私は後藤に何を言われたのかを理解をするのに少し時間がかかった。
声はしっかり聞こえたのだけれど聞き間違いかなと思った。
しかし後藤はさっきにも増して真剣な表情だった。
私はずっと聞こうと思っていたことを聞かれていたのだった。
きっと後藤も私と同じでずっと心配だったんだ。
お互いの相手は自分のことをどう思っているのかが。
そう言えば私ははっきり後藤に好きだと伝えたことがなかった。
後藤も多分気づいていたんだろう。
私はいつも後藤から『いちーちゃん大好き』と言われてから
『私もだよ』と返すばかりだったのだ。だから実質『好きだ』
と言ったことはないように思う。言い馴れない言葉で少し戸惑ったが
今まで上手く伝えられなかった自分の本心を伝えたかった、
ううん、伝えなくちゃいけなかった。
大切な人を失わないように
「私は後藤のこと大好きだよ。ずっと好きだった。誰よりも、何よりも」
私はもうオーバーヒートしそうなぐらい頭が熱くなってきているのがわかった。
「本当?いちーちゃん?」
「本当だよ」
「じゃあちょっと目を閉じて手をだして」
「ん?こうか?」
私は言われるままに目を閉じて両手を差し出した。
「違うよ、左手だけでいいんだ」
「もう、早く言えよ。どっちでもいいだろ?」
「駄目なの」
「ったく、ほら」
私は左手を出した。
すると、指に何か冷たい感触があった。
「まだだよ、まだ目開けちゃ駄目だからね」
そして私の手にもう一つ、丸い輪のようなものが置かれた。
「はい、開けていいよ」
私は目を開けて左手を見つめた。
すると前に失くしてしまったはずの指輪が私の指にはめられていた。
そしてもう一つ。私のイニシャルが彫られている指輪が手の中にあった。
「これって…」
「いちーちゃん、ごめんね。あれからいちーちゃんへの誕生日プレゼントを
考えてたんだ。だけどどうすればいいかわからなくて、あの時ちょうどいい機会
だったから持ってっちゃったんだけど」
私は涙が溢れてきた。もう涙が頬を伝っていた。
その滝のように流れる涙は止まる気配がなかった。
ただ私は後藤が言うことに、うんうんと頷いているだけだった。
「それでもう一個お願いがあるんだけど、もう一個の指輪をさ、
私にいちーちゃんからつけて欲しいんだ」
私はまだ泣いていた。あのことを言わなきゃと思いながら。
ただ今は言えそうになかった。だから私は必死で一言。
「少…し待…って」
「うん、いつまでも待ってるよ」
後藤は優しい顔をしていた。
それからたっぷり10分は泣いていただろう。
ようやく落ち着いてきたので、後藤をもう一度見直してから私は言った。
「その前に私からも一つ聞きたいことがあるんだけど」
「なに?いちーちゃん」
「後藤は…わたしのこと…どう思ってるの?」
「ほえ?」
後藤はまさか自分が聞かれるとは思いもしなかった様な表情を見せた。
しかしすぐに
「そんなん決まってるじゃん、私はいちーちゃんが世界で一番大好きだよ」
「後藤……」
私はそっと後藤に近づくと後藤の左手を持ち上げて薬指に指輪をはめた。
「あれっ?」
私の涙はすでに出尽くしたはずだったのに、また泣いていた。
「もう、いちーちゃん泣きすぎだよ。私まで泣いちゃうじゃん」
後藤の目からも涙が流れていた。
私は一つだけ確信できることがあった。
それは、今二人は幸せを感じてるということだった。
私は後藤の頭を撫でてやった。
そしてそっと後藤の唇に自分の唇を重ねた。
私たちのkissは少ししょっぱかった。
二人のkissは今までに作ってしまった溝を埋め尽くしていくように長かった。
もう紅白のエンディングは終わっていたみたいで記念すべきミレニアムを迎えるため
のカウントダウンが始まっていた。
「「「「20、19、18、17、16…」」」」
そしてどちらからと言うのではなく二人は唇をはなした。
私はまた昔のように、いや今はそれ以上の強い絆が二人に
できたような気がしていた。後藤もきっとそうだろうと思う。
そして…。
「後藤」
「うん」
「「3」」
「「2」」
「「1」」
「「HAPPY NEW YEAR!!」」
他のメンバーはテレビで年を越していた。
私は他のメンバーとは一緒に年を越せなかったが、
後藤と一緒に年を越せることができて今までで最高の誕生日を終えた。
そして私は自分に誓った。
もう2度と後藤を離さない。
そして、自分に素直になろうと。
大好きだよ、後藤。
その後二人は二度と離れることがなかった。
いつまでも二人の薬指は白く輝いていた。
〜Fin